領土問題を武力紛争にしないための知恵について
- 2016/07/25
- 13:24
まさに今、下記のような対策も使い、ASEAN諸国は、南沙諸島などにおける対立を回避しようとしているようですが、先の記事で紹介した、「他国との連携、情報共有」とともに、領土問題をエスカレートさせないための方法として、日本にとって参考になると思われますので、紹介します。
こういうことを日本の関係者が共有し、一つ一つしっかり実行していくことで活路が開けてくるかと思います。
(日本から、緊張をエスカレートさせる行動をとらないことがまず肝要です)
『不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換』孫崎 享 2012.3
より 一部表現手入れ 228ページ以降
領土問題を武力紛争にしないための知恵
①まず相手の主張を知り、自分の言い分との間で各々がどれだけ客観的に分(ぶ)があるかを理解し、不要な摩擦は避ける。
残念ながら、日本は、尖閣諸島、竹島、北方領土でこの作業をほとんど行ってきていない。
日本の主張点のみを考え、そこから政策を作っている。この態度は武力紛争に進展する可能性が高い対応である。
②領土紛争を避けるための具体的な取り決めを行う。
2002年11月に署名された中国とASEAN間の「南シナ海の行動宣言」は
「領有権紛争は武力行使に訴えることなく、平和的手段で解決する」「現在(当事国に)占有されていない島や岩礁上への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制する」の項目を有している。
残念ながら、日本の多くの人は逆の発想をしている。
相手を煽る行動を自制することが正しいとは判断せず、自己の領有権をより明確な形で示すことが正しいと見ている。
しかしそれは、相手国にも同じ行動をとらせ、軍事紛争の可能性を拡大させる。
(まさに現状がこうなっていると考えます。相手を刺激する行動は控えつつ、味方国を増やし情報をとり、交渉を重視する方へシフトする方が得策です。)
③国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる。
(これを今、ASEANなどは鋭意取り組んでいます。ASEANが分裂しないことが大切になってくると思われます。)
④緊密な多角的相互依存関係を構築する。
(交易や経済、開発など、他の分野でも依存関係を作るようにつとめる)
⑤国連の原則を前面に出していく。
国連憲章第二条第四項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」としている。
中国は自国内の民族が独立運動を起こすのを警戒し、外国の勢力が独立運動を支援することを恐れている。
中国は、他のどの国よりも「領土保全」を重視する国連憲章を守る体制が望ましいと考えている。中国は安全保障問題で各国と合意する際、しばしば国連憲章の遵守に言及している。(つまり民族独立を支援しないように釘をさしている)
この状況から、中国との関係において、国連憲章の遵守を唱え、軍事行動を抑制することが望ましい。
⑥日中間で軍事力を使わないことを共通の原則とし、それにしばしば言及する。
これによって、お互いに遵守の気運を醸成する。
1972年の日中共同声明は第六条において、「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する」としている。
また、1978年の日中平和友好条約第一条で、再度「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原別の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」としている。
(日中共同声明、日中平和友好条約で、恒久的な平和友好関係をうたっており、「武力を使わない形での解決をめざしたい」などと繰り返し発言、それを原則にもっていくことも大事)
⑦領土問題は領土だけでは紛争は生じない。
しばしば、地下資源や漁業資源がからむ。
したがって、地下資源や漁業資源についての合意を行い、それを遵守する。日中間には「日中漁業協定」がある。資源に関する共同開発などの話もある。(実は2008年福田内閣の時にこれが実現していました。当時外相だった高村正彦氏は「日中がどんな困難な時でも話し合いで解決できる好例。戦略的互恵関係の具体的成果だ」と評価しました。)
(これは、一つ前の記事の「本当の目的」を探ることとも通じる内容です。)
これらを進め、これから対立が生じないようにする。
⑧現在の世代で解決できないものは、実質的に棚上げし、対立を避けることである。あわせて、棚上げ期間中は双方がこの問題の解決のために武力を利用しないことを約束する。
(下記、これについての孫崎氏説明ですが、日本の実効支配を認め、軍事力行使にも否定的な棚上げ合意を破らないことが、今の日本にとって得策と書いてあります。)
尖閣諸島については日中に棚上げする合意があることを見た。
棚上げ方式は、日本側に実効支配を認めていること、棚上げに合意している間は中国が軍事力を使用しないことを暗に約束している。
それに配慮すれば棚上げ方式は、実は、日本に有利な合意である。
しかし、残念ながら、今日、日本の政治家、学者、マスコミ、国民が「棚上げ方式が日本に有利である」という論理を理解できなくなった。
尖閣諸島を日本の国内法で処理することを貫いたら、何時の日か、尖閣諸島を自国領と見なしている中国も自国の国内法で処理すると主張し始める。そして武力で威嚇する。
その時、軍事力でどちらが強いかで決着がつく。軍事力で劣る日本には、なす術がない事態がくる。
尖閣諸島を「棚上げ」にする合意を大切にすれば、日本の実効支配は続く。
しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る。
いま、日本は将来必ず自国に不利な形で跳ね返る政策を実施しようとしている。
1,尖閣に関する棚上げ合意を日本から破らないこと
2,これまでの平和原則の合意、国連憲章などにも、しばし言及し、日中が尖閣などで武力行使をしないという約束をとりつけること
3,日本はASEAN諸国、台湾、韓国などと、政府、民間経由でも、積極的に情報交換を行い、連携して国際世論に訴えつつ、中国と交渉すること。(日本は尊大にならないこと)
4,上記が現実的であることを、関係者が共有すること。
などのことが、日中の緊張、東アジアの緊張を緩和する上で、必要なことと考えます。
上記はミロク会・政治経済記事を担当しているA.C記載の記事です。
こういうことを日本の関係者が共有し、一つ一つしっかり実行していくことで活路が開けてくるかと思います。
(日本から、緊張をエスカレートさせる行動をとらないことがまず肝要です)
『不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換』孫崎 享 2012.3
より 一部表現手入れ 228ページ以降
領土問題を武力紛争にしないための知恵
①まず相手の主張を知り、自分の言い分との間で各々がどれだけ客観的に分(ぶ)があるかを理解し、不要な摩擦は避ける。
残念ながら、日本は、尖閣諸島、竹島、北方領土でこの作業をほとんど行ってきていない。
日本の主張点のみを考え、そこから政策を作っている。この態度は武力紛争に進展する可能性が高い対応である。
②領土紛争を避けるための具体的な取り決めを行う。
2002年11月に署名された中国とASEAN間の「南シナ海の行動宣言」は
「領有権紛争は武力行使に訴えることなく、平和的手段で解決する」「現在(当事国に)占有されていない島や岩礁上への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制する」の項目を有している。
残念ながら、日本の多くの人は逆の発想をしている。
相手を煽る行動を自制することが正しいとは判断せず、自己の領有権をより明確な形で示すことが正しいと見ている。
しかしそれは、相手国にも同じ行動をとらせ、軍事紛争の可能性を拡大させる。
(まさに現状がこうなっていると考えます。相手を刺激する行動は控えつつ、味方国を増やし情報をとり、交渉を重視する方へシフトする方が得策です。)
③国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる。
(これを今、ASEANなどは鋭意取り組んでいます。ASEANが分裂しないことが大切になってくると思われます。)
④緊密な多角的相互依存関係を構築する。
(交易や経済、開発など、他の分野でも依存関係を作るようにつとめる)
⑤国連の原則を前面に出していく。
国連憲章第二条第四項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」としている。
中国は自国内の民族が独立運動を起こすのを警戒し、外国の勢力が独立運動を支援することを恐れている。
中国は、他のどの国よりも「領土保全」を重視する国連憲章を守る体制が望ましいと考えている。中国は安全保障問題で各国と合意する際、しばしば国連憲章の遵守に言及している。(つまり民族独立を支援しないように釘をさしている)
この状況から、中国との関係において、国連憲章の遵守を唱え、軍事行動を抑制することが望ましい。
⑥日中間で軍事力を使わないことを共通の原則とし、それにしばしば言及する。
これによって、お互いに遵守の気運を醸成する。
1972年の日中共同声明は第六条において、「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する」としている。
また、1978年の日中平和友好条約第一条で、再度「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原別の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」としている。
(日中共同声明、日中平和友好条約で、恒久的な平和友好関係をうたっており、「武力を使わない形での解決をめざしたい」などと繰り返し発言、それを原則にもっていくことも大事)
⑦領土問題は領土だけでは紛争は生じない。
しばしば、地下資源や漁業資源がからむ。
したがって、地下資源や漁業資源についての合意を行い、それを遵守する。日中間には「日中漁業協定」がある。資源に関する共同開発などの話もある。(実は2008年福田内閣の時にこれが実現していました。当時外相だった高村正彦氏は「日中がどんな困難な時でも話し合いで解決できる好例。戦略的互恵関係の具体的成果だ」と評価しました。)
(これは、一つ前の記事の「本当の目的」を探ることとも通じる内容です。)
これらを進め、これから対立が生じないようにする。
⑧現在の世代で解決できないものは、実質的に棚上げし、対立を避けることである。あわせて、棚上げ期間中は双方がこの問題の解決のために武力を利用しないことを約束する。
(下記、これについての孫崎氏説明ですが、日本の実効支配を認め、軍事力行使にも否定的な棚上げ合意を破らないことが、今の日本にとって得策と書いてあります。)
尖閣諸島については日中に棚上げする合意があることを見た。
棚上げ方式は、日本側に実効支配を認めていること、棚上げに合意している間は中国が軍事力を使用しないことを暗に約束している。
それに配慮すれば棚上げ方式は、実は、日本に有利な合意である。
しかし、残念ながら、今日、日本の政治家、学者、マスコミ、国民が「棚上げ方式が日本に有利である」という論理を理解できなくなった。
尖閣諸島を日本の国内法で処理することを貫いたら、何時の日か、尖閣諸島を自国領と見なしている中国も自国の国内法で処理すると主張し始める。そして武力で威嚇する。
その時、軍事力でどちらが強いかで決着がつく。軍事力で劣る日本には、なす術がない事態がくる。
尖閣諸島を「棚上げ」にする合意を大切にすれば、日本の実効支配は続く。
しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る。
いま、日本は将来必ず自国に不利な形で跳ね返る政策を実施しようとしている。
1,尖閣に関する棚上げ合意を日本から破らないこと
2,これまでの平和原則の合意、国連憲章などにも、しばし言及し、日中が尖閣などで武力行使をしないという約束をとりつけること
3,日本はASEAN諸国、台湾、韓国などと、政府、民間経由でも、積極的に情報交換を行い、連携して国際世論に訴えつつ、中国と交渉すること。(日本は尊大にならないこと)
4,上記が現実的であることを、関係者が共有すること。
などのことが、日中の緊張、東アジアの緊張を緩和する上で、必要なことと考えます。
上記はミロク会・政治経済記事を担当しているA.C記載の記事です。